「悲しいから泣いてしまった」は勘違い?

本章では、私が佐藤富雄先生からレクチャーを受けた「口ぐせ理論」の中から、主に、 言葉の持つ「力」について説明をしていきましょう。 

いきなりですが、みなさんに、こんな経験はないでしようか? 通勤電車の車内で、理不尽にも体を強く押された。必死に耐えて冷静さを保ったが、 相手があまりにしつこく、ついに我慢しきれなくなり「ああっ、もう何するんだよ っ!」とひと言もらしたとたん、怒りが爆発した――。 意外によくある光景ではないでしょうか。怒りの言葉を口にすると、それをきっかけとして怒りの感情が暴走を始めます。その 結果、感情がエスカレートしてしまうことがよくあります。 モヤモヤしていた公務員時代の私が使っていた言葉も、今思い辺すと、こういった種類の言葉が多かったのです。怒りだけでなく、悲しみもまた同様です。 たとえば、なんとなく気分が落ち込んでいるときに、たまたまテレビで悲しいドラマ をやっていて、それを観ているうちに涙があふれてきた。いったん涙がこぼれだしたら 止まらなくなり、わんわんと声をあげて泣き続けたー。 おそらく、どなたでも一度はこんな経験をしているのではないでしょうか。泌してしまうと指摘をされていました。 

そうした脳の働きにより、実際に悲しい出来事に見舞われたのと同じように、つらく 悲しい気分が醸成されるというわけです。

脳は簡単にだますことができる?

この原理からすると、喜怒哀楽といった自分の感情は脳がつくり出していると言えま す。 

そして、人間の脳というものは複雑なようでいて、じつはとても単純で、ちょっとし たことでだまされてしまうという特性があるのです。 

たとえば、特にいいことがあったわけでなくてもニコニコ顔でいれば、次第に気分が 上向き、楽しくなっていきます。 これは、つくり笑顔であっても同じことです。 つくり笑いを浮かべていると、「自分は今、とても幸せなのだ」と脳が錯覚し、何かいいことがあったかのように、ウキウキ気分を醸成してくれることがあります。この現 象を心理学では「顔面フィードバック効果」と呼んでいます。 脇がいかにだまされやすいかは、科学的にも検証された事実です。

脳科学をベースに編み出された「口ぐせ理論」

さて、いよいよ核心に触れていきます。 少し難しいと感じるかもしれませんが、まず、みなさんにちゃんと理解していただくた めに、「口ぐせ理論」の定理づけをしながら、話を進めていこうと思います。 定理といっても、小難しく考えることはありません。 大事な特徴くらいに受けとめておいてください。 

なお、この定理づけは、佐藤富雄先生の「口ぐせ理論」を、私独自にシンプルにして います。

○定理1
言葉を使うことで、脳をだます。
その結果、脳内ホルモンが分泌されて、頭 で描いた状態に、体が反応していく 脳と体は密接につながっているため、脳内に生じた化学反応は、そのままダイレクト に体に反映されます。 

たとえば、「梅干し」や「レモン」がその場になくとも「梅干し」や「レモン」とい うように、酸っぱいものの言葉を繰り返し唱えてみると、白然と唾液が分泌されるのを 経験したことはありませんか。 その現象、まさに脳をだますことで起こる反応なのです。

○定理2
脳には、主語や時間の流れが理解できない、という特性がある 

唾液が分泌されるのは、私たちの体の全身の調整機能を司っている「自律神経系」の 反応によるものです。 

この自律神経系は、食べたものの消化など、生きていく上で欠かせない生化学反応を 司っていて、この自律神経系をコントロールしているのが、脳なのです。 ここでみなさんに着目してほしいのは、自律神経系を制御している脳の部位は、想像 

上の出来事と現実を区別しないということです。 

過去・現在・未来の区別もしかりです。さらには「私が「あなたが」「彼が「彼女が」 という「主語」の違いまで、脳は理解できません。たとえばみなさんが、以前に起きた「頭にくること」を思い出したとしても、脳は過 去の出来事に反応してしまい、自分が犯した行為でないとしても、どんどん自分を不機 嫌にさせてしまいます

○定理3
「いい言葉」を使う、感謝する、そして歩く。

これらを活用して「快の状態 = 何かを大好きでたまらない状態」をつくり出し、願望を実現させる 最後の定理3に関しては、このあとの章でじっくりお話しをしていきますが、結局の ところ、「頭にきた!」といつも口にしていれば、脳は怒りの感情を増幅させ、ひいて は血圧や脈拍にも変化を起こし、やがては体調まで悪化させます。

それはつまり自分の言葉が脳に影響を与えているから。なのです。 悲しい場面を見聞きしたり、自分で語ったりしても、悲しくなって涙があふれてきます。 やがては食欲が低下し、仕事の意欲まで失うというように、悪しき変化を招いてしまうことにもなることでしょう。 

「つらい……」 「キッい……」 

と言えば言うほど、つらい状況から抜け出せなくなるのも、そうした言葉を発してい ることが原因なのです。 

しかし逆に、みなさんが近い将来自分が望むことが起きるに違いないと本気で考え、 言葉に出して語るとき、驚くべきことに、脳にとってその願望はもはやファンタジーで はなくリアルな出来事になっていきます。 

まさに、今ここで望んだ出来事が起きているかのように脳に伝えることで、全身に力 がみなぎり始めます。 つまり、思考パターンを変えることにより、行動パターンまでも変えてしまうのです。 「口ぐせ理論」は、そうした脳と体の関連性に着目して編み出された成功メソッドです。脳科学と運動生理学を基礎にした、成功哲学であるとも言えるでしょう。 

言葉の影響、すなわち「言葉の力」というものは、みなさんが考えている以上に大き く、それゆえ言葉一つで人生がガラリと変わります。当然好転もしますし、もちろん逆 だってありえます。 

私自身、佐藤先生からこの理論を説明されたとき、そんなバカな? と疑ったことを 今でもはっきり覚えています。 

ただ、私に限って言えば、「言葉の力はとてつもなく絶大だ!」というのが、身を以 て体験したあとの感想です。 

そんな素晴らしい経験を本書でみなさんと共有し、喜びと感動を分かち合いたいとい うのが、私の本心なのです。

悪口は、言った本人を傷つける?

悪口は、言った本人を傷つける? 

さて、みなさんは人と何かを話す際に、十分に注意を払って言葉を使っているでしょ うか? おそらく、目上の人には敬語を使っていることでしょう。 気のおけない友人と話をするときは、くだけた調子にもなることでしょう。 相手が誰であれ、人を不快にさせたりトラブルの元になったりするような言い方は努 めて避けているに違いありません。 

でも、それだけではまだ完璧とは言えません。 たとえば、みなさんは、自分のためにどれ程注意を払って言葉を使っているでしょうか? 

言葉に関して、最も意識すべきはみなさんご自身に対する言葉の使い方。なのです。 

わかりやすい例を挙げましょう。 たとえば、あなたがAさんと二人でいるときに、Bさんの悪口を言ったとします。 「Bってヤツは、嫌なヤツだ。仕事はできないし性格も悪い。みんなに嫌われるのも無 理はない。そのせいか、しょっちゅうイジけてるし、年齢のわりに老けて見える」と。

こう言われて、一番気分を害すのは誰でしょうか。 さらに、言葉の影響を受けて、実際に人から嫌われ、イジけて老け込んでしまうのは 誰でしょう。正解を言いましょう。 陰口の対象となったBさん、陰口を聞かされたAさん、この二人には、じつはなんの 影響もありません。 言葉の影響を受けるのは。その言葉を口にした人であるあなた。なのです。 人の悪口を言ってストレスが解消されると思ったら大間違いで、むしろ気分は陰々滅 ダとなるのです。なぜそうなってしまうかは、すでに前項で説明した通りです。 つまり、脳は、主語を一切理解しないため、他人についての話題であっても、言葉に した途端、自分のことだと解釈してしまうのです。 

また、幸か不幸か、脳には、ウソや冗談が通じません。どんな言葉も真に受け、その 内容のよし悪しにかかわらず、必ず体に反応するよう命令を下します。「嫌なヤツ」 「仕事ができない」 「性格が悪い! 「嫌われている」 「イジけている」 「年齢のわりに老けている」 これらの言葉に対し、脳は「自分もこうなんだ」と理解し、体に命令をして忠実に表 現、つまりその状態の実現に向けて働き始める、というわけなのです。

自分の発した言葉は誰に一番影響する?

私も佐藤富雄先生に出会う前は、言葉の使い方に対して無自覚でした。 

職場で嫌なことがあると、「ちきしょう」 「バカやろう」 「あんなヤツ死んじまえ」 などと、乱暴な言葉を口にし、イライラすることがとてもよくありました。その場は それでスッキリしていました。

しかし、よく考えてみると、帰宅してご飯を食べているときや、布団に入って寝よう としているときなどに、どうしてだかわからないけれど気が滅入っている、なんていう ことがしょっちゅうありました。今にして思うと、あれは自分が口にした言葉の毒に、自分自身がやられてしまってい たのです。 ただ、佐藤先生に出会ってからは、人をけなしたり貶めたりするような言葉は口にし ないように努めています。 

言葉はすべて自分に返ってくる――。 これはもう避けようのない事実です。 だったら、悪口よりもほめ言葉を積極的に使う方が断然いいに決まっています。「彼は仕事ができる」 「性格もいい」 「みんなに好かれている」と誰かをほめるのであれば、ほめた人が得をしますし、その場に相手がいるのであれ ば、その人との人間関係もよくなることでしょう。私も、使う言葉を意識しているせいか、ここ数年で「やさしい」「多くの人から好か れている」と頻繁に言われるようになりました。 この例ではありませんが、みなさんも「こうなりたいな」という自分のイメージを持ち、誰に遠慮することなく口にしていけば、なりたい自分にどんどん近づいていけるこ とでしょう。

「自分はこうなる」とストレートに言うのもいいし「あの人はこういうところがすご い」と誰かをほめるのだっていい。 どちらにしても、素晴らしい効果が期待できるはずです。

言いたいことを言うとどうなっていく?

「日本の社会は、欧米に比べて自己主張をしづらい雰囲気があります。言いたいことも言わずに我慢をしないとやっていけないし、閉塞感もかなり強い――。」

そんな話をなにかの本で読んだことがあります。 たしかに、会社など組織の中では、上司と部下、先輩と後輩といった上下関係があり ますから、思ったことを言いにくい場面があると思います。

もし言ってしまえば、そこに冷たい空気が流れることでしょう。仲間外れにされたりするはずです。しかし、そうなることを恐れて、終始他人の顔色を疑い、当たり障りのないことだけにしていたのでは、建設的なコミュニケーションをはかることができないでしょう。現代で、人間関係が希薄と言われる理由はここにあると思います。

かつての私は、周囲の反応などまるで気にせず、言いたいことを言っていました。失礼な言い方をしないように気をつけることは大事だけど、「自分はこう思う」と、きちんと意見する方がもっと大事だ、という考えだったんです。それは決して間違った考えではない、と思っていますが、やはり反省すべき点もあったなと感じています。自分が口にした言葉の影響で、感情をストレートに口にしてしまうことがよくあり、気が付くと、言わなくてもいいことまで言っていた、なんていうことが私にはありました。他人の弱点を突いてズバッという、なんていうこともしばしばだったのです。じつは「感情にながされていただけだった」のかもしれないと反省すべき点が、多々あったはずです。いい気分を相手に伝えるのであればまだマシなのですが、感情をそのまま言っていたので、職場で苦しい状況に追いやられていたのも、仕方のないことだったのかもしれません。

言葉ひとつでも人生は変えられる

そんな私に「お前は口が悪い」と、真正面から注意してくれたのは、やはり佐藤富雄先生でした。

「それと、お前のものの言い方はネガティブだ。そこに気づけ。」と指摘されました。私としては、本当のことをただ正直に言っているだけ、という感覚だったのですが、言われてみれば、たしかに「こんなこといつまでもしていちゃダメだ」とか、「こうすればいい、ということは明らかなのに、どうしてみんなやらないんだろう」と、否定的なことばかり口にしていたのかもしれません。

何も考えずに本音や正論を口にだしていれば、それは楽です。ただし、自分がどれほどネガティブな言い方をしているか、人に指摘されるまではなかなか自覚することは出来ません。

佐藤先生は、私にこんなふうに教えてくれました。「言いたいことを言ってもいいが言い方を考えろ」「ネガティブなことを言うにしても、ポジティブ方向か言え」なるほど、例えば「こんなこといつまでもしていちゃだめだ」というのであれば、「やり方を変えれば、もっと簡単に出来る」と言えばよかったのです。そうすれば、その場の閉塞感にとらわれることなく、自由で開放的な発想ができたのだと思います。