日米健康事情の違い―前書きにかえて―
日本人は自分達は長寿国民であるという自負がある。
長寿であることをそのまま健康であるというこ とに結びつけ、無意識に日本の食生活は健康的であると思い込んでいるところがあるだろう。
確かに、日本は健康先進国といわれるアメリカよりも平均寿命は長いが、寝たきり老人の数は、アメリカの約5倍 なのである。寿命が長いことよりも、高齢になっても元気に楽しむことが人生の基本であるべきなのに、口本の老人は寝たきりになって長く生き続けているのである。
最初に寝たきり老人の話を持ち出したのは、この話をすると健康に対する考え方の切り口の違いが明 確になるからである。
日本とアメリカで明らかに異なるのは、国をあげての健康に対する対応の仕方である。アメリカに関して過去のデータを見てみると、1994年は予防医学の国家予算、わかりやすく言えば健康管理のための予算が1兆ドルで、当時の国民総生産の12%に相当した。この12%という数字は、 先進国では最も高いといわれているアメリカの軍事費に相当するものである。
このことから見てもわか るように、アメリカでは健康に取り組むことが大きな課題となっている。
日本では国民総生産の1%程度の軍事費を高い、低いともめているのであるから、それが12%を占め、 ますます増大していくのであるから、アメリカでは健康管理費で国がつぶれてしまうのではないかという危機感すら生まれているのも当然である。だから、アメリカの国立衛生研究所や国立科学アカデミーなどの政府機関が、率先して食による疾病予防策を研究しているのである。
アメリカ政府は健康問題を、軍事や外交に匹敵する国策としてとらえている。こういった背景が具体的にアメリカの健康関連市場に どのような影響を与えているのか、どういったところが日本と異なっているのかを見ていきたい。
私がこれからあげていくいくつかの点について状況を理解してもらうと、今後日本で健康食品といわ れるものに革命が起きて、サプリメントの時代が必ずやってくることが分かるであろう。そして、今の日本ような行政や、健康食品を取り扱っている企業のあり方、健康食品を消費している一般の人々の考え 方には大きな問題があり、今後健康先進国のアメリカのあり方を見ていくべきであることも理解できるであろう。
なぜなら、やがて日本にアメリカ的な健康理論が必ず流れ込んでくるからである。こういったことを前提にして話をしていくが、99年発行の『ナチュラルフーズマーチャンダイザー』と いうアメリカの専門紙によれば、97年のアメリカの健康自然食品企業の規模は約148億ドル、日本円 で2兆円くらいであり、これは日本の約3倍ほどの規模である。
さらにアメリカでは国をあげて徹底的 に健康問題に取り組み、国民もそれに同調していくという風潮がある。先程アメリカの国民総生産に占める予防医学の予算について述べたが、次年は変革の起点となった年である。この年の10月に米国栄養 補助食品健康教育法(DSHEA)という法律が制定され、97年6月1日に施行された。このことは非常に大きな意味を持っている。 米国栄養補助食品健康教育法(以下、健康教育法)は、日常生活に必要なビタミン、ミネラル、必要微量 栄養素を含んだハーブなどの成分を含有するピル、錠剤またはカプセル状の物を栄養補助食品(dietary supplement)と定義し、日本の厚生省にあたる米国食品薬品局(FDA)の許可なしに、人間の身体の構造 や機能に関する効能表示が可能になった。つまり、医薬品と食品の間にサプリメントというものの位置 づけを法的に認知したのである。
詳しい定義については第1章で解説する。
今後、日本にも同じような大きな変化が生まれてくることが考えられる。 日本の健康食品とアメリカの健康教育法で定められているものとを比較してみると、まず日本には健 康食品、栄養補助食品と呼ばれているものには法的な定義が全くない。
したがって、日本の法律では、薬品とそれ以外の食品という位置づけになるので、健康食品は一般食品のジャンルに入り、健康食品とし て売られているビタミンEやビタミンCといったものは鮭の缶づめ等と同じ部類のものとなるのである。
また、日本の健康食品には人間の身体への効果効能を表示することはできない。人間の身体に影響の あるものは薬品としての許可を受けなければならないし、広義での医薬品のみがそのような効果効能を 表示することが認められている。
つまり、日本には薬品か食品しかなく、日本の健康食品はアメリカの法 的認知を受けた栄養補助食品(サプリメント)とは大きく異なるものである。
日本では一般的に身体に良いとされている食べ物、例えば玉葱、納豆、黒酢、無臭にんにくといったも のからジャムに至るまで、健康に役立つビタミンやミネラル、酵素その他の成分が微量でも含まれていれば、健康食品という名前で市場に出回ってしまっている。その数は3000種類にものぼるといわれ ている。アメリカではヘルスフード(健康食品)という概念は存在しているが、法律上は全く使われてはおらず、栄養補助食品がきちんとした法的認知を与えられているのである。
日本は今後アメリカと同じ ような流れを避けることはできないので、日米の違いを理解した上で、日本で健康に良いとされている 納豆、味噌といった伝統的な健康食品は残し、アメリカ的なサプリメントといった考え方を取り入れていく必要があるのである。
サプリメントは何のために生まれたのか
サプリメントは、健康増進維持の目的のために作られたものである。
その背景には、今アメリカで盛んに行われているヘルシー・ピープル運動がある。この運動は的歳以上の高齢者のうち社会制度的な機関 からのケアを必要とする人を全体の9%以下にしようというものである。
サプリメントのテーマはあく まで疾病予防と健康維持である。病気の治療はあくまで薬の役割であり、食品は健康的な食生活を考えながら、文化的な背景を包括した食文化の世界でもある。
だから、サプリメントはどの病気に効きます、といった使われ方は一切しない。
表示されるのは、肺機能の改善、筋力増強、免疫力を高める、脳機能活性化、血流改善といったことが中心である。 例えば、カルシウムであれば若い人より中高年の方が多く必要であるが、日本では平均的に1日60 0ミリグラム以上摂りなさいといわれているが、アメリカでは高齢者は1200ミリグラム、女性は、400ミリグラム以上必要であるといわれていて、年齢や性別などによってきちんと分けて考えられている。そして、これだけの量を食事だけで摂ることはできないのでサプリメントで摂るのである。だから、サプリメントは錠剤やカプセル、顆粒、液体といった形状で作られていて、何錠、何カプセルというように必要量を補いやすくなっている。
また、アメリカでは一般的にいわれていることだが、高齢者になると成長ホルモンをつくる胸腺が萎 解して、免疫ホルモンが作られにくくなるが、1日に25~35ミリグラムの亜鉛を摂取すればその機能が 改善される。
亜鉛は、牡蠣や小麦胚芽などに多く含まれているが、これだけの量の亜鉛を摂取するには、膨大な量を食べなければならず実質的には不可能である。そこで、アメリカでは亜鉛のサプリメントは 1カプセル25ミリグラム単位を基本として作ていて、簡単に必要な量を摂取できるようになってい るのである。
人間は自分の年齢、身体の状態、運動の仕方、あるいは自分が作りだそうとする身体の状態、それには 何が必要なのか基本的な知識を持つことが必要である。
アメリカの健康教育法は、そういった健康に対するきちんとした教育を一方で行いながら、このようなサプリメントを生活の中に適切に導入していく役割を担っている。そして、このことがアメリカにおける健康食品市場をさらに拡大していっているの である。
サプリメントは、ヘルシー・ピープル運動、いわゆる高齢者になってる最高の状態の健康を維持しようとすること、このために何をどれだけどのように取り入れていくのかに対するガイダンス、つまり、日常的な使用方法、所要量、効果効能を明示して、その活用を促すものである。そして、アメリカでは 国をあげてその導入が進められているのである。
日本の健康食品事情
これに対して日本では、何の対策もなされていないかというと、そういう訳でもない。
既に規制緩和推 進計画というものが立てられ、医薬品と食品の中間に第二のカテゴリーとして栄養補助食品を設けることを内外に公約している。まだ具体的な動きにはいたっていないが、アメリカのような流れが日本に生まれてくるのは時間の問題である。
厚生省も、1998年11月の「健康日本引計画」の中で、健康食品の今 後の役割に重点を置き始めている。では、現在の日本の健康食品に関する問題点は何であろうか。
まず第一に、日本でいう健康食品は現在野放し状態で、若干ビタミンが入っているというだけで、糖尿 病にでもなりそうなほど糖度の高いジャムが健康食品と呼ばれていたり、キノコの物や煮汁が高価な健 康食品として売られていたりする。ビタミンEやCなどもきちんとした定義や製品規格がないので統一 されず、単に宣伝や流行で売られているのが現状である。
第二に、一部の例外を除いて日本の健康食品は、病気に効く、つまり代替医療に使われるかのように売 られている。私が取り上げるまでもなく、新聞広告や三文健康雑誌を見ると、いかにいいかげんなことが書かれているかがすぐに分かるであろう。
第三に、価格が高い。単純にアメリカのサプリメントと比較すると3~5倍の価格である。しかも、まるで価格が高くなければ効果がないというような風潮すらある。
第四に、規制緩和によって日本でも健康食品がアメリカにおけるサプリメントのように位置づけられ れば、日本の健康食品のメーカーの大部分は根本的な改革の必要に迫られると考えられる。アメリカそ の他の諸外国からサプリメントが日本に流れ込んで来るため、それに対処していかなければならないで あろう。 具体的にいうならば、まずは健康コンセプトの再確認が必要となる。日本のこれまでの健康食品のコ ンセプトがアメリカのサプリメントのコンセプトのように変化していくと考えられるからである。
伝統 あるアメリカのサプリメント会社が日本に輸出攻勢をかけてきて、優れたサプリメントが入ってきたら、日本のメーカーは今のままでは対応しきれないであろう。
このような状況を踏まえると、作る側(メーカー)や販売する側、消費する側すべてにおいて大きな健 食革命が起こってくることを理解してもらえるであろう。
オプティマル・ヘルスという新しい健康理論
アメリカにおけるサプリメントの発達は、健康科学全般に対する研究によって支えられていて、非常に進んでいる。
それについては、サプリメントの説明をする際に、公に認められるようなどのような研究がなされてきたのかを紹介する。なぜこれらの研究について書くのかといえば、日本では 健康科学あるいは栄養補助食品に関連する分野の研究はあまりにもミクロ的であり、動物実験は非常に 限られた範囲のもので、トータルに人間の健康や身体の機能にどのように関わってくるかという全体的 な視野に立ったものが少ないからである。
だから、これらの分野の先生方には少々失礼であるかもしれないが、こういった研究はアメリカに比べて10年以上古の大きな遅れがあるのである。
日本で出版されている健康食品に関する本はまるで三文雑誌などの延長線上にあるかのようなタイトルで、「○○でガンが治った」「○○で糖尿病から回復した」というようなものが非常に多く、こういう ものを大学教授や教授歴のある方達が書いているのである。
この水準の低さは、アメリカではまず考えられないことである。
しかし、今後サプリメントと共に、アメリカの健康理論西日本へ入ってくるであろ う。そして、健食革命が起こり健康革命へとつながり、やがては新しい健康概念の確立がもたらされるで あろうと考えられる。
「私は、この分野の専門家でもあり、ジャーナリストであるという立場からこの本を書いているが、日本の健康食品の実態を暴露しようとか、単にアメリカが進んでいることを教えようというのではなく、冒頭でも触れたようにこれからの時代は最高の健康の状態で長寿を生きていくという時代であるから、このことを実現するにはどうすればいいのを示唆したいのである。
アメリカで流行っている言葉をそのまま使うと、オプティマル・ヘルスの実現ということである。これは人間の最高の健康状態のことで、70歳なら70歳で作りうる最高の健康、75歳なら75歳の、80歳なら80歳の、つまりその時その時の年齢での最高の健康状態を表している言葉である。
私はこのコンセプトが大 好きであるし、私自身も健康学者としてこういうコンセプトを持っている。更にいうならば、如歳でオプ ティマル・ヘルスを実現するならば、その人が70歳の時に70歳のオプティマル・ヘルスを実現できていないと駄目であり、40歳の時も50歳の時にも同様に実現していないとその上に成り立っていかないので ある。
40,50歳の時にいいかげんな健康状態であっては実現はできず、すべては過去の歴史の延長線上に あるものなのである。
私は、人間が生物学的に持っている機能や特性、知恵、行動力など様々なものを含めたオプティマル・ヘルスを実現していこうと、最高の歳のとり方(オプティマル・エイジング)をしようとこの本でいいたいのである。そして、加えるならば、そのためには何も日本の健康食品業界の改革を待たなくても、今でもアメリカの優れた安価なサプリメントを簡単に利用できるのである。
私自身日本の健康食品は利用せず、アメリカのサプリメントを摂っている。手に入れる簡単な方法も書き加えたので、ぜひ多くの方に利用してもらいたいと思っている。