ここまで、サプリメントという新しい栄養学をベースにしたビタミンやミネラル、生理活性要素につ いては説明してきた。その中で私はそれらを科学的な物質として扱ってきた。
健康のコンセプトは時代と共に、病気でない状態からウェルネスへ、そしてオプティマル・ヘルスへと、考え方や意味するもの、内容が大きく変わってきた。
最近の新しい栄養学を近代栄養学と呼ぶとするなら、近代栄養学はオプティ マル・ヘルスの表現や実現、創造に照準が合っていて、そのターゲットとするところは老化である。
これに対し、従来のオーソドックスな栄養学を古典的栄養学というなら、これは人間が成長するのに欠かせ ない栄養素やそれが欠乏することによって起こる様々な症状にベースが置かれていて、人生8年がその 守備範囲である。
しかし、近代栄養学では高齢社会を元気にいきいきと享受しながら70歳代、80歳代を人生の黄金期として加齢してゆくこと、人生の充実感や喜びを表現しようとする考え方が根底にある。
したがって、近代栄養学は、長寿社会を最大限の健康を維持しながら生きることがベースであるので、サイエンスとして の基礎は、いかに老化を食い止めるかにある。つまり、老化の元凶である活性酸素やそれを引き起こすフリーラジカルの反応をどのようにおさえるか、またはフリーラジカルによってダメージをうけた細胞膜 や組織をどのように修復していくかというところに的が絞られている。
これまでとは栄養素を見る角度 が変わっていて、サプリメントというコンセプトは、近代栄養学の視点、つまりいかにして老化を遅らせ るかという視点から捉えられるものである。
意識と身体の関係
前章までで既に述べてきたように、アメリカにおける健康に関する考え方には、基本的に我々が学ぶ べき要素がたくさんある。
国を挙げて血行を作っていくということは、医療費の削減という国家行政面に自己を表現できる喜びをもつことができるようになることでもある。
その背景には、老後は周りの人に迷惑をかけないで暮らせるかというネガティブな発想ではなく、70歳代、80歳代では自己表現の空間、時間を広げられるという肯定的、楽観的な発想をするという意識の質がある。
この章では、人間の意識の質、内容、考え方、感じているものは我々人間、いわゆる声明にたいしてどのようなかかわりをもっているのかについて理解してもらい、まさしく意識内容そのものが、高齢になってからの現実的な有様をつくりあげていくことを知って貰いたい。
我々を生物として見た時には、生物としての生命の仕組みを維持するために欠かせない栄養素、欠かせない運動や環境がある。
しかし、精神をもった人間は、単なる生物学的な生命体という単純な割切りを することはできない。人間は、意識や思考を司る大脳が発達することで、思考を介して芸術、文化、科学を 生み出すのである。
人間の人生そのものが意識の産物なのである。ということは、生身の生体はまさに意 識の支配下にあるのである。不安や心配が意識の中に誕生すると、生体はその不安や心配が真実のものになっているかのように支配される。
すなわち、その不安や心配が心に生まれた瞬間に、生体内ではアドレナリンが分泌され、抹消 血管が収縮し、顔色が冴えなくなり、食欲が減退するというように体の不調が生まれてくる。僅かな根拠 のない不安や心配でもそれが意識上に認識される時、自律神経系にはあたかもその不安や心配が現実に あったかのように反応してしまう。そして、それに対処すべく内分泌系を働かせてしまうので、生体に対 して確実に影響を及ぼすのである。
我々の体内では1秒間に数億といわれる反応系が自律恒常的に働き、 生命体を離持しているわけだが、自律神経系は現実にあることと想像上のでき事の区別がつかないため、 心配や不安を真実ととらえて内分泌系を通して反応をしてしまう。
したがって、我々の身体の中で起きている無数の反応系は意識の支配下にあるといえるのだ。
意識の 支配下にいろいろなことが起こるのだ。簡単な具体例をあげるなら、我々は梅干しを見ると外分泌系が 唾液を分泌する。しかし、心の中で梅干しを想像するだけでも、自律神経系がそれを真実と捉えるために 唾液は分泌される。
同様に我々の人生や健康、寿命にも意識が大きく関わっているのである。
その根本に は高齢社会を明るく捉況るか暗く捉えるか、歳をとることをどう捉えるかという考え方がある。
70歳、80歳代またはもっと身近な50歳、60歳代という生物的年齢で人間の持っている脳の機能は低下すると思い込んでいるということ自体も影響力があるのだ。
古典的大脳生理学では25歳をピークに脳の機能は確実に低下の一途をたどり、老人ボケや老人性痴呆は必然的結果として存在するという考え方が主流であった。
そして、今でもそう考えてる人もいるだろう。
しかし、現在では、大脳にある神経繊維を結びつけているシナップは、70歳代、80歳代になっても十分な栄養素と知的刺激があれば確実に増えると言われている。そして、このシナップが増えることこそ脳が発達する事なのである。
寿命の直前まで脳は活動が維持できるだけでなく、発達するということが確かな臨床データによって裏付けられている。
このようなことを知っているということは、高齢になってからの生き方設計や知的活動に楽観的、希望的な未来を見出すことができるのである。肉体面においても、様々な運動生理学や老年学などの研究の成果により70歳、80歳で肉体的活動は十分に可能なことがわかっている。
このような事実を自分自身に取り込み、オプティマル・ヘルスは実現できるという意識をもつことは身体の中で様々な内分泌系の作用をうむことになる。β-エンドルフィンという脳内ホルモンは、人間が夢や希望などいつも向上心を持ち、ハッピーな気持ちでいるときに脳内に分泌されているホルモンの一種である。
これは1983年にイギリスの有名な科学雑誌「ネイチャー」に、「人に心は快楽を覚えると、脳内モルヒネと言われるβ-エンドルフィンやエンケファーリンなどという麻薬性のホルモンが作られる」と発表され、注目を集めた。例えばこれは病気にかかったとき、すぐに治るだろうと楽観的に考えたり、医者に治ると言われて希望が湧いた時などに出てくる。
また、ハッピーな対話やロマンに満ちた将来の計画を中心に描いたときなどにも出てくる。これらは快楽ホルモンともいわれるが、今では20数種類も発見されている。
このようなホルモンには麻薬性があり、快活な気分にしてくれるだろう、そういう気分のとき、体の中はどうなっているのだろうか。β-エンドルフィンを例にとっていうならば、免疫細胞が活性化され、それにより活性酸素が消去されたり記憶力が高められたり、若さが保たれていたりする。
文学的表現をつかうのならば、幸せな人は不幸な人より健康である、という公式が成り立つ。
ハッピーな気分や幸福感、充実感を作るホルモンが、人間の本来持っている免疫機能を高めていく。ハッピーな心でいることは皮膚の美しさや張りを作り、人は美しく加齢することができる。恋をしたり、モノや作品を好きになったりしてハッピーになることが健康や若さ、美しさに結び付くのである。いわゆる恋をしている人の顔が輝いているのはβ-エンドルフィンやエンケファリンのなせる業といえる。
β-エンドルフィンは医者がうつ病の治療に使ったりもする高価なものである。しかし、何のことはない、あなたがものの考え方や見方を肯定的に捉えたときに、このβ-エンドルフィンの恩恵をうけることができるのだ。
このときあなたの体の中に免疫力の高いサプリメントを作り出したことになる。さらに、あなたの体の中でできるサプリメントにインターロイキン2というものがある。
これは免疫系の重要な科学物質で、抗がん作用がある。これについて少し説明しよう。これは人間の血中にあるが、その産生を司るのは遺伝子である。アメリカのデータでは医学部の学生の血中のインターロイキン2の分泌を調べたところ、国家試験が近づき、ストレスがかかるにつれて減っていった。これは免疫力が弱まっていることを意味している。インターロイキン2が減ってくると、キラー細胞やT細胞という免疫力を司る細胞がうまれてこない。ストレスや不安により、インターロイキン2の分泌は減ってしまうわけだが、別の言い方をすれば、無駄な心配しなければインターロイキン2の後利益を受け取ることができるということだ。
これも我々の身体に中で作られる、高いお金をだしても手に入れることができない亘かなサプリメントである。
オプティマル・ヘルスの実現のために
健康な状態を作るには、前章までに述べたような様々なサプリメントをただ飲んでいればいいというわけではない。老化や生活習慣病は摂取カロリーや運動量、酒や煙草とも深い関わりがある。
中でも運動はとても重要だ。
人間の発展の歴史は、狩猟と採集がベースになっていて、その何百万年もの間に身体の 基礎ができてきた。農耕が始まってからも2000年程度、ましてや乗り物を使うようになってからま だ100年にも満たない。我々は、狩猟採集などを通して体を動かすことによって進化してきたのである。
長い年月の間にできた身体が僅かな期間で変わるはずがないので、動かなくなったことによりひずみ生まれてくる。それが生活習慣病や運動不足よって起こる様々な病気を生む。
当然オプティマル・ヘルスの背景には、何を食 べるか、何を摂るかの他に、どんな社会であるのか、どのような運動をするのかという考え方が関わって くる。実はβ-エンドルフィンやケファーリンは軽いジョギングなどの運動をすると脳内に分泌さ れる。これらには爽快感や快活感を作る軽い麻酔性があるので、ぬる期間運動を習慣化すると、運動せず にはいられないという心的状態を作る。それと同時に思考形態も肯定的に明るく見ることができるよう になる。それにも増して重要なのは、日々運動することでエンドルフィンにより免疫機能を高めるこ とができるということである。
高齢になってからの軽いジョギングのような運動は、健康作りに大きな 役割を持っているのである。私は健康学者なので、自分の信じていることが自分の身体で表現できるのかを常に考えている。
私は 67歳であるが体力てきには30歳代、40歳代の人と変わらない。拗な身体は、サプリメントだけでも運動だけでも作ることはできなかった であろう。私が言いたいことは、人が考えているほど人間の脳や身体は老化するわけではないというこ とだ。手をかけずに空き家のようにしておくので、老朽化が早いだけのことなのだ。
誰でも、私のような 健康な身体を作ることは可能なのである。
自分の思りにあるすべての物を楽観的に、肯定的に見ることができるようになれば、それは未来に向っての資産を手に入れたも同じことである。いつも夢を持つ、やるべきことを持っ、そしてストレスから解 放される、こういうことが重要なのである。
また、人間が消費しているエネルギーの80~90%はタンパク質を作ったり、RNAいった遺伝子などをつくる同化作用、即ち同化代謝に費やされている。
ところが脳が極度のストレス状 態に陥ると、同化代謝に費やされていたエネルギーの大半がストレス状態から脱出するために、どんな 行動でもとれるようにと膨大な量のエネルギーを放出、筋肉に瞬発力を持たさなければならなくなり、 組織を破壊する悪化作用に変わる。長期にわたるストレスの作用は老化現象に非常によく似ている。そして、老化につれてストレスを消 化する力は確実に低下していく。年齢が増すごとに、個人差はあるもののストレスから回復するのに時間がかかるようになる。このストレス抵抗力の低下は直線的なものでなく、指数関数的なもので若い時 の数倍の速さで低下する。
また、ストレスを引き起こすホルモンはグルココルチコイドと呼ばれるもの で、副腎から分泌される。グルココルチコイドの機能は同化代謝を異化代謝に変えることで、肝臓に蓄え られているグルカゴンを分解する。これが減少すると同じグルココルチコイドがタンパク質を分解し始める。
このように過剰なストレス下で分泌されるグルココルチコイドは筋肉喪失、糖尿病、疲労、骨粗鬆 支膚の老化、肥満、動脈硬化、高血圧、免疫機能の抑制、精神機能の低下といった破壊のプロセスを誘引することになるのである。
よってストレスを抱えることは老化を早め、命取りにさえなるのである。