従来から、日本では法律的に100種類を越える特定保健用食品が認められてきた。
しかし、これらは 血圧を下げる、お腹の調子を整える、ミネラルの吸収を助ける、血液の中性脂肪の上昇を抑えるといった 機能を持っているものではあるが、これらはあくまで食品であって治療効果や薬効等はなく、ある一定 の病気を持った人にとって適した食品であるというだけである。
特定保健用食品であるという以上の表 示を行うことはできず、これらはアメリカにおけるサプリメントとは関連性はないし、またこれら特定 保健用食品がベースとなって新しい時代の幕開けを作るようなことは考えられない。
1998年3月31日に「規制緩和推進3ヶ年計画」が閣議決定され、それにもとづいて大きな変化が生 まれてきている。それはこの本が警鎌する筋書きでもある。
厚生省医薬安全局は「規制緩和推進3ヶ年計画」にもとづき「無承認無許可医薬品の指導取り締まりについて」の見直しを行った。それによってカルシウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、クロムなど1品目につい て新たな判断を示した。
この判断は効能、効果を標榜しないことを条件に、カルシウム、鉄、マグネシウム の3品については医薬品に該当しないものとして扱うというものであった。これは医薬品ではなく食品 の範囲に入ることを認めたものであって、アメリカのように食品と医薬品の間にサプリメントというものを位置づけたというわけではないが、それに一歩近づく流れが出てきたと見ることができる。
この規制緩和推進3ヶ年計画」は諸外国からの圧力が加わってきたために作られたものであるが、作られた1 年後にはこのような動きがでてきたので、残りの2年のうちに必ずアメリカのサプリメントのような位 置づけが行われるという方向へと動いていくであろうと考えられる。
日本の健康食品
そういう動きの中で、日本の健康食品という分野はアメリカと比べるとどういうところが違うのか、 良い悪いというのではなく、どこに違いがあるのかを見ていきたい。
前章でもいくつかの点で日米の比 校をしてみたが、さらに特徴的なことについていくつかあげていく。
『暮らしの手帳』という雑誌の江号に食べ物信仰を止めよう、という内容のことが書かれていた。ここ に書かれていたことは私の考えと一致するものがあるので、ところどころ引用しながら話を進めていき たい。
同誌によると、99年5月の最終週の4日間にテレビ番組で紹介された食品、食材はパイナップル、 右から、レンコン等50種類を越えていて、どれもが血液をサラサラにする、ガンが治るというような、あたかもそれを食べれば病気が治り、健康になるかのような錯覚をおこすばかばかしいものばかりであったということである。
日本の健康事情を欧米に比べ特異なものにしているのは、その一つにこの食物信 仰があげられるだろう。
メジャーな健康関連雑誌でさえ苦、驚くようなタイトルをつけている。例えば、「酢玉ねぎで体脂肪が 減りスラッとなる」「ビワの葉の煮汁が糖尿病やガンの秘薬になる」「アロエで白髪やシミが解消する」といったもので、あげていけばきりがない。
本当にこれらで治るのであれば、これほど嬉しいことはないが、 そんなことはあり得るはずもなく、もう少し科学的に見る目を持ったならばすぐに気づくであろう。そして、そういう科学的見方のできる人が多くになれば、こういった雑誌は見向きもされなくなるはずである。
健康に対するミスリードの最たるものがこういう雑誌とワイドショー系番組であるといえるだろう。
年度末の厚生省の調査結果によると糖尿病の患者は予備軍を含めると1400万人で、40歳以上で は7人に1人が該当するそうだ。これほど多くの人が感っているのだ。しかも、糖尿病というのは生活習 慣病であり、特別な場合を除いてエネルギーの過測摂取と運動不足が原因である。それなのに酢玉ねぎ や黒酢で治るとなぜいえるのであろうか。
また、フレンチパラドックスといって、脂肪分の多い肉やチーズをたくさん食べ、お酒を大量に飲むフ ランス人が他の欧米人に比べて心臓病の死亡率が極めて少ないという話があるが、これが赤ワインに含 まれているポリフェノールのおかげであることがわかると、日本では様々な食品にポリフェノールを添 加し、ついにはポリフェノール入りチョコレートまででてくるように、健康食品に対する信仰めいたものがあるが、科学的ではない。
フランスのリヨン大学のルノー教授によって、赤ワインは、多くの酵素に含まれているという2000種近いケミカル物質、フラボノイドを結合している複合されたポリフェノール、アルコール等が含ま れたバランスの取れた歴史ある飲み物であり、それが生活習慣の中で健康と深く関わってきたことがあくまでも科学的に証明されているのである。
確かに、アメリカでも、ポリフェノールの話がテレビで放映 された後には赤ワインの売り上げが2倍になったというエピソードもあるが、ワインの絞り粕からポリフェノールを分離して、それを食品に添加して健康食品として売り出すというのは、あくまで日本的現家なのである。
ガンや糖尿病、心臓病といった概ね死亡率のトップにあげられているものは、生活習慣に深く根差し ていて、それを変えることにより十分に予防できたり改善できたりするのである。
もちろん、その中で食べ物は大きな比重を持っているのだが、あまりに食物信仰が強いと、生活習慣ということ、つまり運動不足、喫煙、肥満といったいくつかの条件が重なり、身体のバランスが失われていくことを見失ってしまう恐れがある。
今、日本では新しい健康意識を国民に作っていくことにより、医療費や介護という社会的な 問題に取り組んでいかなければならないのに、酢玉ねぎや黒酢といった特定の食品で病気が治るなどと 放映したり、記事にしたりするのは大きなミスリードを行っていることになりかねないと言わざるをえない。
日本の健康食品市場と変革の波
ビタミン、ミネラルその他の微量成分が、アメリカのようにサプリメントとして市民権を得ていく過 程には、それがずっと使われてきたというだけでなく、その安全性や効果が科学的に研究されてきたと いうことがある。
欠乏したらどうなるのか、それを摂ることによって何が改善されるのか、という科学的 に納得が得られるべースがあってこそサプリメントは根を下ろしてきた。また、アメリカでは自分の身体に何が必要か、どう改善していきたいのかという選択を納得し健康作りは行われていくもので、その上でサプリメント市場は有意義なものになっていくのである。
しかし、日本では必ずしもそうではないのである。
経済的スケール上からその特徴を拾ってみたい。日本には健康食品関連では、アメリカにおけるサプリメントのようなきちんとした分類と統計データはないのだが、的年末に『日本健康食品流通新聞』(日本健康食品流通新聞社発行)では、健康関連商材と 分類してデータを載せていた。この分野は日本では訪問販売が主流であるが、その上位20社の売り上げ の合計は8319億円であり、前年比10%の伸びであった。上位20社の売上合計がだいたいこの分野の 総売り上げであると把握して差し支えないが、この中には食品より健康機器や機材が中心となっている 会社も含まれているため、純粋な食品の売り上げは6000~7000億円弱と考えられる。その中でアメリカでいうサプリメントに該当するもの、または準ずるものの売り上げはとても少なく、だいたい 20%弱である。なぜこんなに少ないかというと、日本の健康食品の中の売れ筋は、アメリカのサプリメントに該当しない、クロレラ、ローヤルゼリー、プロポリス、キトサン等であり、これだけで売り上げの過半数を占めているからである。
これらは日本では市場に足場を持っているが、アメリカではマイナーなものであり、市場でパーセンテージを得られるようなものではない。
ここで重ねていって行くが、これはあ くまで日米の比較であって良い悪いについて述べている訳ではないことを理解してほしい。
日本の健康関連商材の売り上げの大多数は訪問販売によるものであるが、これはアメリカのマルタイ・レベルときわめて近いものである。もしくはアムウェイ、シャクリというアメリカに本社を持つ企業が 同様のコンセプトのもと日本でも活動している場合もある。代理店方式や紹介方式とそのやり方は様々 であるが、基本的には人から人への紹介によって販売網を広げ、販売実績や紹介実績でコミッションやボーナスを還元するという形を、ほとんどの会社がとっている。
日本ではアメリカと少し違い、このような連鎖販売をマルチと呼んでいるが、こういうものは訪問販売法の規制の下に置かれているため、制度的には訪問販売として分類されている。したがって訪問販売という呼び名ではあっても、アメリカのマルタイ・レベルに非常に似通っているものが多いである。
年度の訪問販売ではメジャーな会社の売り上げが減少し、確実に衰退方向へと向っている。老舗のアムウェイ、ミキ商事、シャクリなどは軒並み売り上げが減少しているのである。8年に入ってからはその傾向は加速している。
たとえば、アムウェイは2400億円を目標としていたのに2度も下方修正して1600億円にまで 下げた。しかし、その一方でこの業界には新規参入が急増していて、マーケット自体は拡大している。マー ケット規模が毎年10%程度を拡大しているので、これまでマーケット創造に貢献してきたメジャーカンパニーが売り上げを下げているのは、単に不況のせいだけということはできないであろう。
このことは、これまで主流でなかったサプリメントタイプのものがその比率を増していっているために、従来型の企 業が維持していきにくくなっている。
言い変えれば、健康食品の中でアメリカでいうサプリメントが日 本においても主流になる動きが出てきていると見ることができるのである。
従来型の企業はこの動きの 中でどう対応して行くか考えなければならない状況にきているだろう。また、先ほども述べたように、健康雑誌には〇〇でガンが治った等というように食物信仰的なことを 書いているものが非常に多いが、後発のものには少し違った傾向の記事を出しているものがある。例え ば『日経Health」という雑誌であるが、これは従来の健康雑誌とは全く違う内容のもので、アメリカのサプリメントの考え方、つまり病気を治すのではなく、サプリメントを摂ることにより改善するという考え方にのっとったものが多い。
このように後発で、特に新聞社系の雑誌には取り扱いの良いものが多いようである。これらの雑誌はアメリカで20年ほど前に中心的役割を果してきたプリベンション』という 健康雑誌に似ていて、新しい流れを感じさせるものである。
価格破壊は必ず起こる
次に、価格の問題についてみていきたい。
雑誌や新聞の広告に載っているものの値段を適当に拾って その価格帯をみていこう。
今話題のいちょう葉エキスは、脳機能の改善をすると欧米でも高い評価を得 ているものだが、日本でもその市場は100億円に達したといわれている。
これをある日本の会社では 1粒ミリグラムで220粒入りビンを1万3400円で販売している。非常に高く、他社の物でもこ のくらいの価格帯が多い。
アメリカのサプリメントでもGingko(いちょう葉エキスのこと)はあるが、こんなに高い値段でマーケットに出ることはありえない。 また、キノコ考様々な種類のものが評判になっていて、霊芝から舞茸、そしてアガリスク茸へと人気は 移っている。キノコにはB-グルカンという成分が含まれていて、これがガンに効くという、いくつかの 研究所からの発表がブームに火をつけた。
最色多くB-グルカンを含むといわれているアガリスク茸は、 高濃度煮汁をレトルトタイプにすることが多いようだが、その価格は30袋入りで1万9500円と非常 に高価である。他社でも2万円前後の値をつけている。
こういったものは、病気が治ったという体験談な どの口コミで売られることが多いようだ。しかし、市場は今変わりつつあり、アメリカのサプリメントの考え方が流れ込んで来ようとしていて、 新企業の参入も加わり、サプリメント市場はやがて確立されていくであろう。その時同時に価格破壊 必ず起こってくるだろう。
今のままでは従来型の企業は対応していけないのではないだろうか。
あるビジネス雑誌にアメリカが買いたいと思う日本の企業20社が掲載されていた。その中で、健康関 連会社としてファンケル社があげられていた。この会社は、化粧品と健康食品の準大手、あるいは今では 大手に入るかもしれないが、売り上げは500億円を越えているといわれている。無添加化粧品から始 まって、やがて体の内と外の両面からというコンセプトのもと健康食品の分野に参入したわけだが、その価格の高さに驚き、価格破壊を大きく掲げるようになった。こうして瞬く間に500億円に達したの である。通信販売という形態をとり、顧客のフォローもうまくいっているようである。
そして、アメリカのサプ リメントに近い商品、ビタミンEやビタミンCなどは単純比較で他社の2分の1~3分の1の価格で、 ほぼアメリカに近い価格帯で販売している。
アメリカにとっては、価格破壊に対応する販売システムな どを持っているという点で、ファンケルは買いたい企業としての魅力を持っているということなのだろ う。そして、こういう企業ならば変革が起こっても今後も生き残っていけるで海ろう。
ひとつ言っておきたいのは、日本で価格破壊がやがて起こるだろうことは述べたが、私たちはそれを 待つ必要はないということである。
つまり、現在アメリカから商品を購入することに何の問題も生じないのである。とても簡単にアメリカにオーダーでき、クレジットカードさえ持っていれば支払いもスムーズである。また、個人使用であるなら税金もほとんどかからず、送料が国内より少し高めというだけである。
日本の何分の一というアメリカの安い価格のサプリメントを日本にいながらにして手にするのは少し難しいことではないのである。
いつ人々はそのことに気づき始めるだろうか。手順さえ分かるようになれば、皆がアメリカから購入するようになるという傾向が生まれてくるであろう。
また、アメリカの 会社で日本にアンテナショップをおいて日本のマーケットを直接ねらう外国企業が出てくるのも時間の問題だろう。
現在法的な規制があるため個人輸入という形で購入することになるが、近いうちにこの 法的障害は取り外されることになるであろう。
日本に、アメリカのサプリメントや理論などが入ってくるようになると、先ほど述べたような健康雑 誌やワイドショー番組などもその質を変えて行かねばならなくなるだろう。
食物信仰的な記事を書いて いる雑誌などは、大きく方向性を変える必要がでてくる。しかし、このよう健食革命とでもいうようなものが起こりつつあることは、マスコミ関係の人やジャーナリストの方などは結構把握している人も多いので、今後価格破壊とともに健康に関する情報媒体の変革がおこってくるだろうと考えられる。
そして、もっと高いレベルでは、人間として望みうる限り望ましい歳の取り方のためにはどうしたらいいのかという健康に関するスタンス、意識の変化が国民の中に台頭していかなければならない。
健康な身体は自 然な状態で生まれるものではなく、積極的に作り上げていくもので、ましてやこれからの高齢化社会では、健康は意識的、計画的、希望的に作り上げていくことが一市民としての義務であり、それを怠ること は現代社会の構成員の一人として失格なのだという意識が国民の間に生まれてこなければならない。そして、同時にそのことは医療費削減にもつながる。
こういう意識レベルで変革する時代の流れを先取りし、私の提示する問題を考えていき、オプティマ ル・エイジングというコンセプトを取り入れていってもらいたい。
本書では、アメリカの健康に関する事 情や流通問題など様々な事柄を取り上げているが、健康食品を作っている人、販売している人、食べている人、つまりはメーカーから消費者に至るまで、新しい時代のリーダーシップを取っていく人にこの本 を読んでもらいたいと思っている。そして、健康とは思想、ものの考え方であるということも理解してもらいたい。