アメリカの健康科学は前に述べたように時代の最先端であり、人間の健康に密接した研究が、 次々と行われ、発表されている。
そして、これらの研究が人々の健康に寄与してきたわけである。
中でも 高齢者医療費の削減が大きな社会問題となっているため、老化を防ぐ研究も盛んに行われている。ここでは老化科学について取り上げてみたい。
老化科学の現状
もし、若さを保つ薬があったなら欲しくないという人はいないであろう。しかし、これは今では夢ではなく、老化を遅くする、あるいは逆行させる物質を科学者は既に発見しているのである。
歳をとることで起こる有害な変化である老化は、実は不治で悪性の栄養失調なのである。
老化は大人になると始まり、中年で加速を始め、50歳以降になるとますます進行していく。
しかし、老化はその進行を防ぐことができるというのだ。若さと活力を保ちながら長生きすることは可能なのである。そのために必要な老化防止薬(サプリメント)は世界中のきちんとした研究所から出回っていて、簡単に手に入れることのできる安全なものである。
これらを摂取することにより、これまで歳と共に悪くなっていった健康状態は自分で創持したり、良好な状態に保ったり、コントロールできたりするのである。現在、科学者達の研究の主流は病気の治療ではなく、老化のプロセス、老化そのものについてである。
老化とは、弱くなった細胞がどんどん破壊されていき、それが身体と精神の退化へとつながっていくことだが、今の科学では避けられないことではなく、ましてや当たり前のことでもないのだ。
多くの著名な研究者は、老化を歳をとることで起きる避けられないものとして捉えるのではなく、病気として捉えている。
つまり、老化は長い間の生活環境が細胞にもたらす害が原因で起こり、身体を退化させ、ついには 身体の機能を破壊する病気なのである。だから、他の病気と同じように、老化についてもその進行を遅くすることや治すことができると考えている。
たとえ何歳になってる老化を治すことは可能であるという証拠はたくさんあり、老化を防ごうとするのに遅すぎるとか早すぎるとかということはないのである。
何世紀にもわたって若さの源を追求する研究は行われてきたのだが、現在科学者達はその若さの源の一部の細胞を作っている遺伝子を発見している。そして、多くの科学者達は老化の根源と老化を遅らせる鍵はDNAにあると考えている。
最近ではよく耳にする抗酸化ビタミンは、ガン、心臓病、関節炎や神 経系の病気を防ぐのに効果があるといわれているが、それは細胞に害を及ぼす老化を抑えるというメカニズムが働いているからである。だから、ほとんどの病気予防に関する研究は、老化をいかに抑えるかに焦点を絞っている。分子生物学レベルで、食物や植物に含まれている自然物質の中で老化を抑える物質的 が何であるかということが研究されている。
1993年9月の米国国立科学学会の会報誌の中で、老化研究の大家であるカリフォルニア大学、バー クレー校のブルース・アムス教授は「酸化物、抗酸化物と老化という退行性疾感」という論文を発表した。 その論拠は細胞の遺伝子DNAへの酸化による害は、年齢と共に蓄積され老化の元凶となり、ガン、心血 管系疾患、パーキンソン病や痴呆といった老化による疾患を引き起こす、ということである。
けれども歳 と共に蓄積されるDNAの変異は植物に含まれている抗酸化物を摂取することで防ぐことができ、その 結果として老化を遅らせることができるというのだ。
さらに、タフツ大学のように政府が支援している老化研究所では、老化による身体の変化によって病 気を予知できるという研究が行われている。
歳と共に身体は生化学的に変化していくが、これまではそれを避けられない老化現象として当たり前のように受け止めてきたのである。しかし、これは間違いで あり、その変化は疾患の兆候で、栄養素を適量摂ることによって良くなることがあるということだ。例えば歳をとるとホモシスティンという物質が血液中に増えていくが、このホモシスティンは血栓を作りやすくして、その結果心臓発作を起しやすくするという。
事実、心臓発作を起した患者は、コレステロール値は正常であるが、ホモシスティン値が高いということだ。ところが、ほうれん草のような食べ物に多く 含まれている葉酸やビタミンBを摂取するだけで、ホモシスティンは減るというのである。
このように栄養素を摂取することによって、老化の原因を一つなくし、心臓病を防ぐことができるのである。また、歳をとると免疫力が低下し、ガンや感染病を引き起こすことは一般的に知られているが、メモリアル大学の最先端の免疫学者、チャンドラ氏の研究によると、18種類のビタミンとミネラルを適量摂取 することにより、免疫力は高まって、高齢者の感染病は半分に減らせるということだ。
彼の研究結果は医 学会に大きな躍進をもたらしている。同様に、中年期には免疫機構の中枢となる胸腺が萎縮し始め、それ と同時に病気と闘うT細胞をつくるチムリンというホルモンの生産も衰え始める。
しかし、65歳以上の 人が毎日たった30ミリグラムの亜鉛を摂取すると胸腺の機能が回復し、20歳若い人と同じくらいのチムリンとT細胞が生産されるようになることが、いくつかの研究で分かっている。
さらに、もっと驚くことに、老化による脳の機能低下を逆転させることができるということだ。歳と共 に精神的能力を失っていくことはよくあることだが、記憶の喪失、集中力の低下といったものは、ビタミ ンは、葉酸といったビタミンB群の欠乏によることが最近の研究により分かってきた。
アルツハイマーやその他の痴呆症患者の20~30%はビタミンB欠乏であるということだ。そしてビタミンを摂取すると精神的機能は回復したのである。歳をとると、食物中のビタミンBを吸収するために必要な胃の酵索が産生されなくなる。そこで、ビタミンを摂取すると精神的機能を回復することができたというので ある。
タフツ大学にある国立栄養研究所のローゼンバーグ博士は、加齢と共に起こる精神疾患のほとんどはビタミンで予防あるいは修復可能であるといっている。けれども、永遠に生きられるとか、不死を可能にするといってるわけではなく、ほとんどの科学者は、人間を含むすべての哺乳類には自然が決めた寿命というものがあり、それはいつの時代も変えることはできないと確信している(人間では120歳が最高寿命と考えられている)。
しかし、ジョージ・バーンが 「歳をとることは仕方がないけれど、老け込む必要はない」といっているように、いつまでも若々しく長 生きするという理想の状態を求めて励むことはできるのである。シェークスピアが言った、「長く生きる ことで受ける罰、歯なし、髪なし、すべてなし」の心配はしなくていいということである。
エイジング革命が起きている
老化の進行を抑えるために行動を起こすことで、我々は治療ではなく予防を重視するという、医学の 素晴らしい革命の一員となることができる。
我々が長生きになっていることは否定できない現実で、それをどのように生きるかが結果的に大きな違いを作る。
老化を人間の避けられない宿命と受け止めて、 身体が崩壊するのを何もしないでじっとしていることもできる。あるいは減っていく生化学的活力を補 給し、頑張っていくこともできる。
加齢と共に必要な抗酸化物や他の物質が減少していくならば、それらを摂取すればいいのである。
確かに、いろいろな意見があるのも事実である。まだどれくらい効果があるのはっきりしていないのだから、これらの新しく普及された若さの源を普及させるのは早すぎると言う人もいる。また、科学者の中には、自分の評判を落としたくないために、老化防止物質の効果を薬の効能を調べる時のように人間 を使ってテストし、100%の科学的実証がなされるまでは勧めないという人もいるようである。
しかし、そんなことをしていたら10~20年はかかるだろうし、実証できないで終わるかもしれない。
カリフォルニア大学の有名な研究者、ブロック博士をはじめとする率直な科学者達は、そのような薬のテストをする時に行う医学的試験は、抗酸化ビタミンを評価するには見当違いなもので、すべての真実を明らかにすることはできないと考えている。タフツ大学のブラムバーグ教授はそのようなテストから答えが出るには、何世代にもわたるだろうと言っている。
そして、すでに多くの科学者達が大量のビタミン中や老化防止物質を摂取して、自分自身の老化を最小限にとどめているのである。
最も重要なことは、栄養補助食品を摂取することに危険がないかどうかであるが、ほとんどの研究者 は全く問題はないとみている。
ハーバード大学のウィレット教授は儲けが最大、リスクが最小なのに じっとしているのはばかげていると言っていて、多くの研究者はその意見に賛成をしている。
彼は「サプ リメントの摂取が老化を防ぐのはほぼ間違いないし、危険もないのだから、サプリメントを摂取するの は極めて合理的なことだ」と言っている。またUCLAの病理研究者のハリス医学博士は、抗酸化ビタミンの大量摂取による副作用は全くないと言い、彼自身相当量のビタミンEとC、そして足の裏が黄色くなるほどのベータ・カロチンを摂っているという。
もし、摂るのが遅過ぎたら悲惨なことになるだろう。例えば、中世紀の恐ろしい惨事となった壊血病を例に上げてみても、当時2世紀にわたって、ビタミンCの豊富なフルーツが壊血病を防ぐのではないかと科学者達は気づいていたし、1700年頃にはそれが実証されていた。
しかし、イギリス政府が水兵に 海上でライムかレモンを与えるようにしたのはそれから半世紀もたってからのことで、その間に壊血病 で死んだイギリス水兵は20万人にも及んだのである。
老化に対する対策や治療において、我々は待つことでどうなるか分からないという状況の中にいる。積極的にことを起すのを待つべきのだろうか。それは我々次第であるといえるだろう。
アメリカにおける健康観の変革
アメリカでは、1980年代にウェルネスという健康観が普及していった。
この考え方がでてくる前 は、健康とは病気ではない状態のことをいい、ヘルスという言葉を使っていた。この考えでは、病院で検 査に異常のなかった人はみなヘルスであることになる。しかし、中には検査に異常がなくとも病気にな る寸前の人もいれば、逆に快調そのもの元気いっぱいという人もいるだろう。つまり、発病するまでは健 康という認識を持っていたため、ガン、心疾患、糖尿病などの成人病を、食生活や運動、喫煙等の生活習慣 を見直し、予防をしていこうとするような考え方は生まれていなかったのである。
そうしたヘルスという考え方に代わってでてきたのがウェルネスであった。ウェルネスという健康観は、病気であるかないかという二つの区分をするというのではなく、健康にはレベルがあって、それはどんどん高くしていくことができるというものであった。健康を一つの山に例えてみればイメージしやすいだろう。つまり山をどんどん登ればそれだけ良好な健康状態になっていくというものだ。
このウェルネスの考え方が人々の間に広がって行くと、食生活、飲酒、ストレス管理などという日常の生活習慣を コントロールすることにより、健康の質の向上や病気の予防はできるという認識がなされるようになり、 多くの医療関係者や健康産業の担い手達を含む大きな動きとなっていったのであった。
そして、現在はこのウェルネスにかわる新しい健康観が生まれている。それがオプティマル・ヘルスで ある。
心も身体も生き生きとして最高の健康状態のことをいう。そして、オプティマル・ヘルスの健康観 ではその状態をいかに維持していくかということに焦点があてられているのである。
このように健康観がヘルス、ウェルネス、オプティマル・ヘルスへと変わっていくにしたがって、ビタミンやミネラル等の栄養素の摂取に対する考え方も変わってきた。病気でなければいいというヘルスの考え方では、ビタミンやミネラルは欠乏症にならないだけの栄養所要量を摂っていればいいというものであった。
例えばビタミンCなら30ミリグラム、これが欠乏症にならない最低量であり、これを摂取すれと考えられていた。そして、これは食事で簡単に摂れる量なのである。
しかし、より高いレベルの健康のためには栄養所要量以上を摂る必要があることが分かってきた。ビタミンCなら1000~20 00ミリグラムがオプティマル・ヘルスの実現のために必要であるということだ。そして、これだけの量を食事だけから摂ることは不可能であり、そのためにはサプリメントを利用する必要があるのである。
しかし、もっと積極的にサプリメントを利用して、栄養素を摂るべきだと主張する人がいる一方で、健 康に必要な栄養素は食事から摂れているとして、サプリメントの必要性を疑う人もいる。
どちらが正し いとか、間違っているとかいうことではなく、その根底にある健康観が異なっているということなのである。
サプリメントは必要ではないという人は、ヘルスという考え方を基準に、欠乏症にならないだけの、 食事から摂れる量で十分であると考えているのだろう。そして、サプリメントを積極的に利用するべき だと言う人は、ウェルネスやオプティマル・ヘルスという考え方を持っているので、その実現に必要な量を摂るべきだといっているのである。
オプティマル・エイジングとサプリメントの利用
オプティマル・ヘルスという最高の健康の維持を困難にする最大要因が老化であると考える人は多い であろう。
老化は避けることのできないもので、次第に身体を蝕んでいき、ガン、心疾患、糖尿病等を引き 起こし、やがては死をもたらすと一般的には見られているようだ。
まるで歳をとるにつれて、山の頂上の オプティマル・ヘルスから落ちていくように見える。
しかし、オプティマル・ヘルスを維持しながら歳を重ねていくこと、つまりオプティマル・エイジング は可能であるのだ。なぜなら、これまでの老化に対する考え方では老化は防ぐことができないものと捉えられていたが、前述したように老化は病気のように進行を遅らせたり、改善したりすることができる ということが研究によって明らかになってきたのである。
このような研究によって、老化を防止するのにビタミンやミネラルなどの栄養素を大量に摂取することが有効であることが分かってきた。老化はビタミン、ミネラルの欠乏症といっていいほど、加齢するにつれ人の体には大量のビタミンやミネラルが必要となってくるのである。
これまではビタミンやミネラ ルは単に骨を強くしたり、壊血病などの欠乏を防いだりする、食物に含まれているありふれた物質とし てしか捉えられてなかったのであるが、このような発見は「ビタミン革命」と言われ、科学者達のビタミン、ミネラルに対する考え方を一変させたのだった。
こうした状況をテキサス大学、サウスウエスタン・メディカルセンターの内科と臨床栄養学の準教授 で、ビタミン研究者のイシュワーラン・ジャラル氏は「我々は今、ビタミンの全く新しい分野を開拓している」と表現している。主要なビタミン、例えばビタミンCやビタミンE、ベータ・カロチン等は食物に含 まれる量をはるかに超える量を摂取することにより、老化防止や成人病の予防に想像以上に効果があるということだ。
サプリメントを利用し、ビタミンやミネラルを大量摂取するすることによる効果は、今では研究に付けされた事実であって、摂取しないということは不要な老化を招いて死を早めることになるのである。具体的なビタミンやミネラルの効果についてはあとで述べる。オプティマル・ヘルスを実現、維持していくにはサプリメントによるビタミン、ミネラルの大量摂取が 必要であり、加齢と共にその量も増やしていかなければならない。そうして初めてオプティマル・エイジングは可能となるのである。また、オプティマル・エイジングは、若い頃からオプティマル・ヘルスを実現、 維持していき、それを積み重ねていくことによって為しえるものである。つまり、30歳代でも40歳代でもその歳、その歳のオプティマル・ヘルスを実現していかなければ、50歳代、60歳代のオプティマル・ヘルスは難しいということだ。
最後に、パントテン酸(ビタミンB群の一つ)の発見者でもあり、今世紀を代表する生化学者の一人であった故ロジャー・ウィリアム氏の言葉を紹介しておこう。
「現代人の生活環境には、健康を侵害する要因が溢れている。子どもも大人も病気にかからない方が不 思議と思えるくらいである。反面、私達は健康に関する新しい知識と情報も手に入れている。望むなら、人類の歴史の中で誰も経験したことのないほどのスーパー・ヘルスを獲得できるかもしれない。少なく とも自分自身にとっての最高の健康状態、つまりオプティマル・ヘルスを享受するチャンスは誰にでる 与えられているはずである。栄養学の新しい発見には、その可能性を示唆するに十分なものがある」