栄養学に古典栄養学などという表現はないのだが、最近の栄養生化学、分子生物学などの分野の進歩 はめざましく、このような基礎科学を背景に栄養学の分野も大きく変化しようとしている。

かつては、人間の成長に欠かせない栄養素や、欠乏することによって起こる欠乏避を補う栄養素という概念が基本になっていた。

ところが、人間の健康を老化のハッセージ現象ととらえ、老化の科学的プロセスが次第に明 らかになってきた。

その主なテーマが老化の元凶は何かにしぼられ、その悪玉の筆頭に活性酸素、それを誘因する化学反応としてフリーラジカルを軸に、老化科学の栄養学的側面に脚光があたることになった。

前章までに扱った主なビタミン、ミネラルは明らかに活性酸素、フリーラジカル反応に対しての抗酸化物質としての顔を持ったものばかりであった。これを通してサプリメントのコンセプトを理解し、そ れぞれがオプティマル・エージングを計画的にデザインできるわけである。

この章で扱うCoQ-10にしてもギンゴにしても、全て古典的栄養学にはなかった新しい抗酸化物質で ある。

サプリメントとして認められている栄養素は当然、第1章で詳しく説明したアメリカの栄養補助 食品健康教育法で認められているわけだが、その基本となっているものは高齢化社会を元気に健康で長寿を享受することができることである。

この章で扱うサプリメントは、まさにそのような社会的背景とサプリメント・コンセプトを理解するには格好のもので、全く新しい概念で、オプティマル・ヘルスを理解できると思う。

CoQ-10(コエンザイムQ-10)

効果と生理作用

*動脈の保護  *衰えた心臓機能の回復 *免疫機能の向上 *脳機能障害の予防 *若さ保持と長命効果

CoQ-10の生理作用

CoQ-10は、さまざまな作用で老化を防止しているが、その全ての作用が分かっているわけではない。

これまでの研究で明らかなのは、CoQ-10はビタミンEのような抗酸化物質で、脂肪分子をフリーラジカ ルから保護し、酸化を防ぐということである。また、CoQ-10は細胞が正常に機能するために重要な細胞 膜を安定させることに寄与していることも分かっている。そして、CoQ-10の最も優れた作用は、細胞内のミトコンドリアに対するものだといわれている。

ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー生成工場と もいわれている重要なところで、CoQ-10はこのミトコンドリアの機能を活性化する作用を持っている。

「ミトコンドリアにダメージを与えるフリーラジカルの数が増えるほど老化が進むことを理解すれば、CoQ-10やその他の抗酸化物が若さを保つのにいかに必要となるかはよく分かるだろう。

カリフォルニ ア大学バークレー校の抗酸化物研究の権威、B・アムス博士によると、ミトコンドリアがフリーラジカルのダメージを受けると、細胞へのエネルギー供給は30%も減ってしまうという。

こうしたエネルギー不足は、心臓、肝臓、脳の機能を損なうことに深く関わっている。不足していたCoQ-10を大量に補給するこ とで、こうした状況は改善されるのである。

CoQ-10は心臓の筋肉細胞に特に多く含まれている。心筋細胞は、心臓が1日何万回を超すポンプ作用 を行い、それには非常に多くのエネルギーが必要とされる。CoQ-10が欠乏すると、心臓が弱ってくるのも、このような理由によるわけである。

CoQ-10をよく知ろう

CoQ-10をビタミンCともいうが、この抗酸化物質はあまり知られていない。が、老化を予防し、老化に よるさまざまな病気、特に心臓病の予防や改善に効果があるとして、新しく発見された抗酸化物質である。

体内で生成される自然物質であるが、海産物にも含まれており、サプリメントに合成され、アメリカでは一般の健康食品店で手に入れることができる。皮肉なことに、この原材料はほとんど日本からの輸人であるが、この日本では食品として認められていないので一般に入手することはできない。

CoQ-10の必要摂取量ははっきりしていなが、体内で生成される量よりも多く摂取することで、老化を 防止し長生きできることは確かなようである。体内のCoQ-10が不足することで、老化が加速される。

0歳を過ぎた頃から、体内でのCoQ-10の生成は減っていき、中年では深刻な欠乏をもたらすと考えら れている。老化した細胞や疾患のある心臓では、CoQ-10がかなり欠乏していることからも、0歳を過ぎ てから心臓病にかかりやすいのは、CoQ-1が減少していくことと関係していることがわかる。

CoQ-10 は、老化に関わる重要な物質なのである。

動脈保護と心臓機能の回復

CoQ-10は、動脈硬化のもとになる血中コレステロールの酸化を防ぐのに有効である。

ボストン大学の 研究者、Bフレイ氏は、動脈硬化の原因となる悪玉LDLコレステロールの酸化を防ぐのには、ビタミ ンEやベータ・カロチンといった抗酸化物質が有効だということはよく知られているが、それよりもCoQ-10のほうが効果的だという。

この抗酸化作用の過程でCoQ-10は大量に消費されるので、いかにたくさんのCoQ-10を保持しているかが動脈を健康に保ち、若々しくいられる鍵となるのである。

高齢で心臓が衰えていく状態で一番多いのが心筋症で、心臓の筋肉が弱まっていく状態なのである。 心臓が肥大し、弱まって血液が放出されなくなってくる。これは明らかに心臓病で、心臓移植をしなくて はならない状態をもたらすこともある。

テキサス大学生化学研究所のディレクター、K・フォルカーズ博 士は、1957年から研究を始めCoQ-10を開拓した博士だが、彼は心臓疾患が増えている最大の理由は、皆が気がついていないが、CoQ-10欠乏が増えているからだと主張する。

彼は、心臓病患者の血液中には、健康な人よりCoQ-10の量が5%少ないことを発見している。また、心臓病患者の店名で、心臓組織に深 刻なCoQ-10欠乏が見られることも発見している。さらに、心臓の筋肉が弱まった心臓疾患をもつ高齢の 悪者にCoQ-10を与えたところ、石%の患者の症状が改善されたという。

心臓病学者のP・ランソン医学博士の研究によると、高血圧患者109人にCoQ-10を1日225ミリ グラム与えたところ、5%の患者の血圧が下がった。3~4カ月間のCoQ-10の摂取で、上の血圧は159から147に下がり、下の血圧は外からに下がったという。さらに、心臓の機能にも改善が見られた。

この実験を始めた時は、全ての患者が降圧剤を飲んでいたが、CoQ-10の摂取後は、日常の感者が 降圧剤を減らすことができ、5%の患者は薬をやめて、CoQ-10の摂取だけで安定した血圧を保つことが できるようになった。

心臓病を専門にするPランソン医師は、CoQ-10の効果はとても素晴らしく、oQ-10なしの医療は考えられないといっている。 

免疫機能の向上と脳の保護

CoQ-10が老化を防止する作用の一つに、免疫を向上させる働きがある。例えば、高齢のネズミは、若い ネズミに比べて、外敵に対して3分の1しか抗体をつくることができない。

しかし、高齢のネズミにCoQ-10を与えると、抗体の生成が増えて、若いネズミがつくる抗体の5%をつくることができる。人間にも同 じような効果がある。

フォルカース博士の研究によると、1日8ミリグラムのCoQ-10を摂取した患者の 血液中の抗体は顕著に増加しており、こうした増加は1~3カ月で見られる。

CoQ-10は細胞のミトコンドリアの機能に重要な物質であることからも、アルツハイマーや記憶障害、 ボケなど高齢で起こる老化現象として捉えられている脳機能の障害の予防に白効果があると示唆する 研究者たちもいる。

フリーラジカル研究の先端をいくネブラスカ大学のD・ハーマン博士は、脳細胞でフリーラジカルの ターゲットとなりダメージを最も受けるのはミトコンドリアであり、ダメージを受けると脳機能が低下 していく、という。

CoQ-10は、そのミトコンドリアの活力を復活させることのできる数少ない抗酸化物 の一つなのである。若さを保ち長寿のビタミン – カリフォルニア大学ロス・アンジェルス校の病理学者、S・ハリス博士の研究によると、CoQ-10を与え ているネズミは若さをより長く保っているという。

また、CoQ-10を与えられているネズミは、与えられ ていないネズミに比べて、歳をとっても活発だという。

CoQ-10やその他の老化防止物質を専門とするカリフォルニア工科大学のS・コール医学博士は、CoQ-10を与えられているネズミは、見かけがよく、毛づくろいをよくするし、毛並みがいいので、2、3カ月は 若くみえるという。

興味深いことは、こうしたCoQ-10の効果は、高齢になるまで現れないということ。若 いうちは、違いが見られないという。

コール博士は、中年期までは全てのネズミは同じように見えるが、高年期になると、突然、差があらわ れてきて、CoQ-10を与えているネズミは、与えていないネズミに比べると、どんどん見た目がよくなっ ていくという。 

また、ハリス博士の研究では、CoQ-10を与えられたネズミの30%は、与えられないネズミに比べて約 2カ月、長生きだという。

コール博士は、「CoQ-10を摂り始めたらすぐ元気になると考えてはいけない。CoQ-10の摂取は、保険のようなもので、将来への投資なのである。そして、その報酬は高年期に得られる」とコメントしている。 

まとめ

50歳を過ぎると、CoQ-10は不足がちになるので、老化を防止するためにも摂取をすすめたい。

健康で あれば、1日30ミリグラムで十分だが、病気がちであれば50~150ミリグラムの摂取が必要となる。

ランソン博士の研究では、心臓病患者に1日120ミリグラムを2回、合計240ミリグラムを摂取することで、80%の患者で心臓機能が最高の状態の時のCoQ-10血中濃度を保つことができたという。

CoQ-10は、血中で長時間滞留していられる。一度に100ミリグラムのCoQ-10を摂った後でも、血液中のい CoQ-10レベルは最高値に達することができる。だから、一回に100~200ミリグラム摂っても全く問題はないとランソン博士がいっている。CoQ-10は過剰にとっても副作用は見られず、非常に安全だという。

しかし、病気のため処方箋を受け ている人は、その薬のかわりにCoQ-10を摂取することのないようにしてほしい。

心臓病などの病気の場合、薬の他に300を摂取するケースも多いので、主治医に必ず相談の上、摂取したほうがよい。

アメリカで売られているほとんどのCoQ-10は、日本でつくられたもので、タブレット状のもの、粉を カプセルにしたもの、油性のカプセルのものなどがある。油性のカプセルのものや、かむタイプのタブ レットのものは、吸収がいいのでおすすめである。

大切なことは、CoQ-10タブレットは、脂肪分と一緒に摂るか、オイル状カプセルでとらないと、吸収さ れないことを知ってほしい。当然、タブレットタイプのものを水で飲んでも、ほとんど吸収されないということである。

ギンゴの生理作用

イチョウの葉を粉状または液体状にしたものは、脳への老化防止に効果があるとされ、長い間、薬用と して知られてはいたが、ここにきて今までにないほど話題になっている。

イチョウ葉エキス(ギンゴ)の 脳への老化防止効果が、現代の高齢社会のニーズに一致して、注目されるようになったのである。

特にド イツ、フランスでは、その老化防止効果の研究が大ブームとなり、多くの人々がその効果を体験している。ギンの老化防止効果として最もよく知られているのは、血流を良好にする効果である。

高齢になると、血管が老化して柔軟性を失い、詰まりやすくなるので、血流は次第に悪くなっていく。

ギンゴは老化 して細くなってしまった血管を血液が通りやすくする作用を持っている。特に抹消血管、微細血管の血 流がよくなることで、脳、心臓、手足の各組織へ酸素が送り込まれ、体は正常に機能する。ギンゴに関する 300以上にも及ぶ研究により、ギンゴは血管を広げ、血小板が付着して血栓をつくらないようにする ことで、血流を促進する働きをし、組織へ酸素を送り込む、と報告されている。

さらに、ギンゴは、酸素や 血液を健康な部分にだけ送り込むのではなく、ダメージを受けている脳の部分の血流を改善し、酸素を 送り老化した脳を再活性させる効果を持っている。ギンゴはまた強い抗酸化力をもっている。

最新の研究によると、ギンゴはビタミンEよりもフリーラ ジカルの除去力が強く、細胞膜の脂質の酸化を阻止することがわかった。フランスのパスチュール研究 所のドゥリュー博士によると、ギンゴの抗酸化効果は、フリーラジカルの攻撃でダメージを受けた細胞 膜を完全に復活させる作用によるものだという。

また、ドゥリュー博士は、ギンゴは脳機能を司る神経伝 達物質からシグナルを受ける脳の働きを回復させることも発見している。例えば、脳細胞の受容体部分を回復させ、老化により失われたセロトニンという重要な脳内物質の伝達を促進することがわかった。

脳機能の改善

歳をとると、脳の毛細血管の血流が悪くなり、酸素が細部にいきわたらなくなり、大脳不全の状態、い わゆるボケをもたらしてしまう。

そうした大脳不全の状態では、集中力の欠如、物忘れ、ぼんやりする、戸 惑い、エネルギー不足、疲れ、落ち込み、不安感、めまい、耳鳴り等といった症状があらわれてくるのでギンゴの大脳不全の症状の改善効果は、多くの研究により例証されている。

オランダのリンバーグ大 学のクレイネン氏とニップシールド氏は0件にも及ぶ実験を分析した結果、ギンゴは、大脳不全の治療 に使われる調剤薬と同じくらいの効果を持つと結論を出している。これは、1992年のイギリスの医 薬学会誌に発表されている。

この発表論文では、5年にドイツで行われた2つの実験結果が引用されている。一つは、2年以上脳機能に問題を持つ30人の高齢者を対象として、ギンゴを摂取してもらったところ、3カ月たって、20%の人 の脳機能に改善がみられた。

これに対して、偽薬を与えられたグループの場合は、たった8%の改善で あった。

もう一つの実験では、4年ほど記憶障害を持つ平均年齢40歳の200人の患者を対球とし、ギンゴを与えたところ、1%の人の記憶力が改善された。偽薬の場合は、翌%であった。オランダの研究者らは、ギンゴの効果に確信を持っていて、大脳不全の前兆があらわれたら、必ず摂取 するようにと言っている。

研究によると、大脳不全に効果的な1日の摂取量は、120ミリグラムだとい う。おおむね、4~6週間で効果があらわれてくるというのである。