現代のミネラルサプリメントの中には、古典的な栄養学を軸に持っている栄養士や医師の方々では、想像できないミネラルが含まれている。亜鉛、クロム、セレニウムなどは、かつての栄養学では対象にならなかったのである。 

いわゆる工業先進諸国では、高齢化が進み、高齢者といわれる歳以上の方が国民全体の十数パーセントを占め、かつ長寿化が進んでいる。

当然のことながら、かつての栄養学では対応できなくなっている。 なぜなら、高齢になることによって失われる体内の微量元素があるからである。それら微量元素が、老化 や免疫力と深く関わっていることが明らかになってきた。

かつての栄養学は、基本的に成長期の人間がベースで、かつ欠乏症を中心としたものであったのに対して、現代のサプリメントを支える栄養生化学は、老化の仕組み、つまり老化化学、老年学が基本で、かつ老化という現象を悪性の栄養失調とみなすのである。

鉄分の神話の崩壊

生血が薬といわれた時代があった。

それは血中に含まれているミネラル分やビタミン数が豊富であったからである。中でもヘム鉄に代表される分が有効であるといわれていた。

日本でも若い女性の3割が貧血症だといわれ鉄分の摂取をすすめられた。もちろん、栄養学者の中には今でも古典的「鉄分の効用」を説いている方もいる。

だが、サプリメント先進国のアメリカでは違う。貧血症や、鉄分の少ない血液には、鉄欠乏は恐怖の一つであるが、普通の成人男女にとって逆に鉄分が 多いことは最も大きな危険なのである。

その一つは、血中の鉄分が悪玉LDLコレステロールを毒性のある変性コレステロールに変えて心疾患の原因をつくることがわかったからだ。

このような研究の総合判断が下されたのは、1992年のことである。

特に血中コレステロール値が 高い人は、鉄分を含む食物を避けるのが一般的である。店頭に並んでいるサプリメントの中でも鉄分が 含有することがありうるマルチバイタミンの多くは「IRON FREE」即ち鉄分は除去してある旨をラベルに明記している。

老化をすすめる成分の一つに鉄分があげられるようになって歴史は浅いが、アメリカにおいては常識になっている。一般男子、閉経後の女性は鉄分の含む食べ物を避けるのが一般的、それはサプリメントに 関することでなく、一般の食べ物、例えばレバーなども含まれている。フリーラジカル反応を誘引し、老 化をするめることが多くの人々の知るところとなったからである。

同様に鉄分のガン誘発の危険性も立証され、特に直腸ガンの発症率と鉄分の関係が明らかになってい る。鉄分の含有の高い赤肉を多食する人たちは、圧倒的に直腸ガンにかかる率が高い。

同年に発表された イリノイ大学の研究では、血中鉄分の多い女性は、前ガン症状のポリープまで入れると、血中鉄分の少ないグループの5倍、直腸ガンにかかる率が高いという。 鉄分がサプリメントに入らず、しかも微量元素としても除去されている理由を理解していただけたと思う。 

効果と生理作用

鉄分の含有の高い赤肉を多食する人たちは、圧倒的に直腸ガンにかかる率が高い。

同年に発表された イリノイ大学の研究では、血中鉄分の多い女性は、前ガン症状のポリープまで入れると、血中鉄分の少な いグループの5倍、直腸ガンにかかる率が高いという。

鉄分がサプリメントに入らず、しかも微量元素としても除去されている理由を理解していただけたと思う。 

糖尿病には、二つのタイプがある。一つは「インシュリン依存型」で、先天的にインシュリンが十分に作ることができない遺伝的体質のため、血液中のブドウ糖が細胞に送り込まれず、血糖値が高くなってし まうことによって起こる。このタイプの糖尿病にはインシュリンの投与が必要になる。

もう一つのタイプは、「インシュリン非依存型」で、インシュリンは十分につくられているのだが、細胞 が効率よくインシュリンを利用できなくなってしまって、血糖値が高くなってしまうタイプのもので、 中年以降に起こりやすいタイプの糖尿病である。また、加齢とともに膵臓の機能が低下してインシュリ ンを十分に作ることができなくなるタイプも「インシュリ非依存型」で、このタイプは糖尿病の9割を 占める。

「インシュリン非依存型」では、年とともに細胞のインシュリンに対する感度が悪くなって、インシュ リンを受け入れなくなってくる。血糖値が高くなると、それをコントロールしようと膵臓はもっとイン シュリンを放出する。そして、インシュリンがどんどん増えるほど、細胞はインシュリンに対してますま す鈍感になり、インシュリンは血糖の取り込みには利用されなくなる。

結局、歳をとるほどに、血液中には血糖古インシュリンもどんどん増え続けることになる。そして、糖尿病を引き起こす。

こうしたインシュリン異常は血糖を増やすと同時に、中性脂肪や悪玉LDLコレステロールの血中濃度を高め、結果として動脈へダメージを与え心臓病やガンの要因にもなる。

こうした致命的となるインシュリン異常を予防するのがクロムである。

クロム欠乏による老化とインシュリン

クロム欠乏によって起こる異常がただの老化とみなされがちなところがあるが、徐々に確実に進み、 何十年かたった頃には、血中インシュリン、コレステロールが高くなり、善玉コレステロールは減少し、 そして血糖が上がり、最後は病気になってしまう。

多くの場合これは老化によるもので、仕方ないと片づけられてしまうのだが、実際は単にクロム欠乏 によるものであって、予防することができるのである。クロムは血中のブドウ糖を細胞へ送り込むインシュリンの能力を高める。そのため効率がよくなり、 インシュリンを大量につくる必要がなくなり、インシュリンの血中濃度は低くなる。

アメリカ農務省の 栄養学者で、クロムによる糖尿病治療効果を証明したR・アンダーソン博士によると、クロムが不足する と、血糖を処理するために必要となるインシュリンの量は通常の10倍にもなってしまうという。クロム には老化によって鈍くなるインシュリン感度を回復させる効果がある。 

また、いくつかの研究によると、糖尿病患者のインシュリン感度をも改善させることが分かっている。

イスラエルの研究では、1日200マイクログラムのクロムを糖尿病患者に摂取させたところ、女性で は62%、男性では50%に10日以内にインシュリン感度の改善が見られた。

血糖値を正常にしコレステロールを低下

血糖が異常に高いと、糖尿病やその他の異常をきたす。

研究により、血糖値が高い場合は、クロムのサ プリメントを摂取することで低くすることができるという。また驚くべきことに、血糖値が低い場合に おいては、クロムはそれを高めることができるのである。

アンダーソン博士によると、クロムには高かったり、低かったりする異常な血糖値を正常値に保つことがあるという。これは、クロムのインシュリンを正常にする作用によってもたらされた結果ではないかという。

1人の糖尿病患者の二重盲検法による実験では、クロムの摂取によって11人中8人に24%の血糖値の低下がみられたが、これはクロムが欠乏していたためとみられている。 血糖値が正常な場合は、クロムは影響をもたらすことなく、正常なままである。

20年間におよぶ研究で、クロムは悪玉LDLコレステロールを減らし、善玉HDLコレステロールを増やすことが明らかになった。

最近の研究では、23人の男性被験者が200マイクログラムのクロムを摂取したところ、善玉HDL コレステロール値が11%高くなった。 アラバマのアウバーン大学の研究では、血中コレステロール値の高い男性が8週間、クロムを200マイクログラム摂取したところ、平均して14%のトータルコレステロールが低下した。

また、イスラエルの研究では、高齢の心臓病患者が250マイクログラムのクロムを摂取したところ、善玉HDLコレス テロールが約0%増加したという結果がでている。 

心臓病予防と免疫機能の向上

30年前、心臓病で亡くなった人の大動脈中のクロム濃度が非常に低かったことが指摘されていた。

最新の研究では、心臓病患者の血中クロム濃度は、健常者に比べて約40%低いことが分かっている。さらに、 動物実験では、クロムが不足していると、その動脈に広範囲にわたってプラークがたまることが明らかになり、クロムを投与すると、その動脈のプラークは小さくなり改善されることが分かった。

多くの専門 家は、心臓病を引き起こす因子として、血中コレステロールが高いことよりも、インシュリンと血糖の異常の方が大きな問題となっていると強調している。インシュリンを効率よくすることで、クロムは免疫機能を向上させる効果も持っている。インシュリンは、インターフェロン、Tリンパ球といった白血球を活性化することによって、免疫機能に作用する。

クロムサプリメントのすすめ

クロムを食物から摂るのは、困難だ。

クロムが豊富に含まれているのは、ビール酵母、ブロッコリー、大麦 、肝臓、ロブスター、全粒穀物、マッシュルームなどだが、クロムが多く含まれる食事をしても、得られるクロム量は少なく、1000カロリー分食べてもせいぜいグマイクログラムである。

サプリメントのタイプとしては、有機体の吸収性に優れた生理活性の高いものを選ぶべきである。代表的なのはピコリン酸クロム。このタイプのクロムは、体内で利用されやすく、動物実験でも人間での実 験でも保証済みである。

また、ナイアシンと結合したタイプも効果的である。マルチバイタミン・サプリ メントに含まれているクロムは塩化クロムのタイプだが、体内で吸収されにくいので効果は下がる。摂取量だが、老化による慢性病予防のためには、健常な若者、成人においては1日200マイクログラムで十分である。

しかし、専門家たちは、糖尿病あるいは高コレステロール、高中性脂肪を改善したいのなら、1日400~1000マイクログラムを摂取すべきだという。

クロムの過剰量についてアンダーソン博士は推奨摂取量の200マイクログラムの300倍を摂取 したとしても何の害もないと言っている。

また、アンダーソン博士は、インシュリンと血糖に対する効果 は非常に早く、2、3日から2、3週間であらわれ、摂取量にもよるが、血中コレステロールと中性脂肪へ の効果は2、3週間から2、3カ月であらわれるという。

クロムの摂取をいつから始めるかという問題もあるが、若いほどいいといえる。それだけ老化を早くくいとめることができ、中年期以降の糖尿病、心臓病予防活確実になる。体内におけるクロム量は10年毎 にガタッと減っていく。

しかし、いつから摂取し始めても遅くはない。何歳であろうが、クロムを摂取し始めれば、心臓病や糖尿病リスクを下げることができるのである。

ただし、糖尿病患者で治療を受けている場合は、是非医師の指導のもと摂取してもらいたい。

まとめ

クロムは、老化を防止するホルモンDHEAを増加させる作用によって、免疫機能の向上や、老化防止に有効に作用する。

インシュリンの血中濃度が高いと、DHEAが生成される際に必要な酵素の働きが抑制され、DHEAの生成が妨げられるのである。クロムのサプリメントはそのDHEAの生成を促進 することになる。

ミネソタ州立大学のG・エバンスの研究によると、閉経後の女性がそれまで摂取していた200マイ クログラムのクロム摂取をやめると、4~6カ月でDHEAが10%減少していたことが分かった。DHEAは、老化により、インシュリンの効率が悪くなるとともに、減少していくホルモンなのである。

フランスの有名な研究家、E・E・パウリューは、75歳でDHEAレベルは、25の10%しか満たないでいる。機能を高め、記憶力をよくし、免疫力を向上させ、筋肉疲労をやわらげ、 骨をじょうぶにし、さらには制ガン効果もあるのである。

亜鉛は体内でどのように作用するのか

免疫システムをつかさどるのは、胸腺といわれる部分である。

この胸腺は若い時は大きく、強固だが(出生時には心臓より大きい)、歳をとるにしたがってしぼみ、力を失っていく。この萎縮は思春期を過ぎたころより始まり、そして、これは免疫機能の低下としてあらわれてくる。

この胸腺の萎縮はめざましい老化現象の一つなのである。米国国立老化研究所の免疫学 者、W・アドラー氏は、0歳では胸腺はレントゲンではみつけられないほどになっているという。 

胸腺の活動が弱まると、免疫システムであるT細胞が外敵を見つける力を備えられなくなってしまい、 感染にかかりやすくなってしまうのである。

T細胞の働きがなくては、B細胞の抗体を作る能力は弱まる。アドラーによると、インフルエンザによる死亡率は、3歳では10歳より5倍も高いという。

つい最近まで、研究者の間でも、歳をとると胸腺が萎縮するのは逃れようがないことで、それによって 起こる免疫力低下は老化現象であり、高齢になると感染にかかりやすくなってしまうのは仕方がないと考えられていた。

しかし、それは事実と違っていた。現在では、研究により、老化による胸腺の萎縮は神話となっている。 免疫機能の低下を阻止すること、改善することは可能なのである。

それを可能にするのは、亜鉛というミネラルである。亜鉛によって、高齢になっても免疫力を回復することができるのである。